標準溶液

標準溶液の調製

標準液は、市販されている高純度物質から調製する方法もありますが、試薬メーカーから既に調製済みのものが数多く市販されています。原子吸光用の標準液などは安価で保存も効きます。また目的に応じて混合して使用できます。また、最近では様々な元素の組み合わせで多元素同時分析用の溶液があります。これを利用すると非常に効率がよくなり、混合の際問題となる溶液の液性に関する注意や混合ミスも防ぐことができます。しかし、混合標準液は元素の組み合わせ上の制限で濃度が低めに抑えられていることがありますので、残量、保存期間を考慮して使用します。

10 ppm 程度の混合標準液はメーカーの保証期間内であっても、保存方法が適切でない場合、濃度の変化が生じている可能性があります。特に Hg など吸着が起きやすい元素では注意が必要です。同じ元素について 2 社以上の標準液を保有し、時々標準液同士で定量しあい、濃度の変化が生じていないか確認することをお勧めします。

混合標準液を調製する際は、各溶液の内容を確認してください。特に対イオン元素が測定対象元素に含まれている場合や、他の元素や対イオンと反応してしまう場合などは、標準液を分けて調製します。たとえばCrの標準液はクロム酸カリウムを使用していることが多く、この場合Kの濃度が意図と異なってしまいます。Siの標準液にはケイ酸ナトリウムを使用することがありますので、Naの標準溶液と混合するのは望ましくありません。元素によっては標準溶液の液性がアルカリ性になっていたり、フッ酸が含まれている場合もあります。また、混合した結果、酸化還元反応を起こし、形態が変化して容器に吸着し易い型となってしまう場合や、対イオンとの溶解度積が低く沈澱を生じてしまう場合などもあります。

しかし、ある程度濃度が低ければ化学量論的に反応は起こりにくくなるので、むやみに混合を避ける必要はありません。一つの溶液に調製できれば測定時間はそれだけ短くできます。判断に苦しむ時は、実際に溶液を混合して検量線を作成したり、単体の標準溶液の感度と比較してみることをお勧めします。

標準溶液濃度

通常、最小二乗法で作成された検量線は(相対的に)濃度が高い方でエラーが最小となります。したがって、検量線はサンプル濃度に近い濃度レンジで作成することをお勧めします。しかし、実際ICP-MSICP-QQQは非常に広いダイナミックレンジを持っているため、検量線の最高濃度の 10 倍程度まではエラーもあまり大きくなく定量できます。

逆に、非常に高濃度ポイントを含んだ検量線で低濃度の測定元素を定量する場合にはエラーが大きくなります(下図参照)。高濃度ポイントでのエラーは検量線に大きく影響を与えます。たとえば、0、50、100 ppbの標準溶液を用いて作成した重み付けなしの検量線で 1 ppbを正しく定量するのは困難となります。その濃度を分析する場合には、最高濃度を 10 ppb程度までに抑えるべきです。

サンプル中の測定元素の濃度が広い範囲に分布している場合、標準溶液濃度も 0、0.1、1、10、100 ppbのように大きく取り、各目的濃度に合わせた検量線のポイントを使ってください。重み付けした最小二乗法を用いる方法も効果があります。この方法ではばらつきの小さいポイント(通常は低濃度領域)ほど重みが付けられます。

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重み付けの有無による検量線