分析性能用語

検出限界

一般的に検出限界は超純水を 10 回くり返し測定して得られた標準偏差の 3 倍(3s)を濃度に換算したものをいいます。たとえば 10 ppbの標準溶液を用いた場合、次のようになります。

icpmsOpe-16-22-82.png 

s: ブランク溶液の標準偏差

S: 10 ppb標準溶液の信号(カウント

B: ブランク溶液の信号(カウント)

 

以下に例を挙げます。

感度が 10,000 cps/ppb、バックグランドが 5 cps、積分時間が 10 sec だったとすると、1 ppb溶液は 100,000 カウントとなり同様にバックグラウンドも 50 カウントとなります。カウントが少ない場合には標準偏差(SD)はバックグランドのカウントの平方根に近似することができます。したがって、SD は 7.07 カウントになり、検出限界(D.L.)は 0.21 pptになります。

積分時間が 1 sec の場合、同様の計算で D.L.は 0.67 ppt、0.1 sec の場合には 2.1 ppt となります。

D.L.を改善するには積分時間を長くすることが重要ですが、仮に積分時間を 100 sec にしたところで 10 sec に比べて 3.3 倍しか D.L.は改善されません。したがって、積分時間 10 sec というのが一般的によく用いられます。

再現性の良いデータを測定するためには少なくとも 1,000 カウント以上の信号が必要とされます。この場合相対標準偏差(RSD)は約 3.3% になります。10,000 カウントで約 1%となります。以上の点から、測定濃度により積分時間を調節することをお勧めします。

感度が 1,300,000900,000 cps の場合、パルスからアナログに切り替わります。

また、約 4,000,000,00010,000,000,000 cps が EM のリミットになるので、これより高濃度のものを測定するときには、同位体比が小さい質量を選ぶかチューニングにて感度を下げなければなりません。

定量限界は、求める精度により計算方法が変わってきます。便宜的には検出限界の計算式の 3sの代わりに 10sがよく用いられます。

精度

ICP-MSICP-QQQの精度は、多くの場合、同位体比をくり返し測定して、その比の再現性で表されます。

典型的な例はAgの 10 ppb 溶液を 10回測定して質量数 107 と 109 の比の再現性をみる方法です。0.2%程度になると思われます。

よい精度を得るために重要な事は信号の安定性であり、感度チューニングでチューニング元素のRSDをできるだけ小さくすることが必要です。信号取り込み周期が短いほど信号の不安定さを相殺してくれるので、セットアップペインにある [スイープ回数/繰り返し] を 10,000 回に設定します。

最良の精度を得るには、ペリスタルティックポンプに起因する脈動を避けるために、自己吸引を用いると良いでしょう。235U/238U 同位体比測定の同時再現性(1 時間)は、0.2% RSD程度になると思われます。

確度

分析の確度は標準物質(Standard Reference Material)を測定してその結果が保証値の範囲に入っているかどうかで判断できます。この場合、装置の信頼性だけでなく標準物質を前処理する際の正確さや汚染が影響を与えます。

サンプルを処理したり、保存するための器具の材質や維持管理は重要なポイントです。微量分析をする場合には専用の器具を用いる等の配慮が必要です。

標準溶液やサンプルを保存する場合には容器内壁への吸着や元素間や酸による共沈も考慮に入れる必要があります。

検量線は、測定元素の濃度に近いものを用いなければ誤差は大きくなります。また、多点の検量線の場合には標準溶液の調製精度が重要な点です。相関係数がよくても、多点検量線の場合低濃度での誤差は大きくなることがあります。