外部検量線法は、検量線を作成する方法では、もっとも一般的な方法です。複数の既知濃度の標準溶液を測定して、検量線を作成します。
標準添加法とは、サンプルに既知濃度の標準溶液を添加して、検量線を作成する方法です。
この方法はマトリックスによる増減感を補正するために用います。この方法では直接サンプルに標準溶液を添加するので、サンプル中にもともと含まれる測定元素と後から添加した標準溶液中の元素とは、マトリックスによる影響を同様に受けます。
仮にサンプルの信号をs0、それに標準を添加したサンプルの信号をs1、s2 とします。また、ブランク溶液の信号をbkgとして最小二乗法で検量線を得ると下図の左のグラフのようになります。この時点ではサンプルの濃度を 0、添加した標準の濃度をp1、p2 として検量線が得られます。検量線をブランクの信号まで外挿するとマイナスの濃度が得られますが、このマイナス分がサンプル中に存在する測定元素の濃度です。結果として標準溶液を添加したサンプルの濃度はc0 とp1 を合わせた濃度c1、c0 とp2 を合わせた濃度c2 となります。たとえばサンプルに 10 ppb (p1) と 20 ppb (p2) を添加して得られたサンプル濃度が 2 ppb (c0) だとすると、10 ppb添加したサンプルの本当の濃度は 12 ppbとなります。
標準添加法
一度標準添加法で検量線が得られると、外部検量線法に自動変換して、データ解析が実行されます。検量線を変換すると、y軸がブランク溶液の信号までシフトします。この時、ブランク溶液の濃度は 0 になり、サンプル濃度はc0(上の例では 2 ppb)となり、それ以外の濃度も同様に変化します。
標準添加法に用いたサンプルとそれ以外のサンプル中のマトリックスが同様であれば、マトリックス効果も同様に起こると考えられるので、この外部検量線法を用いてそれらのサンプルの定量分析ができます。
添加する標準溶液濃度はサンプル濃度の半分から 2 倍位をお勧めします。大きくかけはなれている場合、定量結果の誤差が大きくなる可能性があります。
最新のMassHunter WorkstationにはVIS補正機能が搭載されています。VIS補正係数は、実際の内標準のシグナル変化から計算され、内標準と分析対象元素の相対的な質量差に基づいて分析対象に適用されます。とくに使用できる内標準が、広い質量範囲の中でとびとびにしかない場合や、質量依存性のある長期ドリフトが起こる場合、このVIS補正機能によって内標準補正係数の正確さが向上します。
VIS補正は、MS/MSスキャンではサポートしません。シングル四重極スキャン時のみサポートします。
ICP-MSICP-QQQにおいては、内標準は主に長期ドリフトを補正するために使用されます。高塩濃度のサンプルを長時間分析すると、サンプリングコーンのオリフィスにほんのわずかな形状の変化が生じますが、このようなインターフェースのコーン形状の変化が原因となって、長期ドリフトが発生します。分析対象の質量数が違うと、このシグナルドリフトの挙動も異なることがあります。このことから、複数の異なる質量数をもつ内標準を使用することがシグナルドリフトを正確に補正するのに有効だということがわかります。測定対象元素が広い質量範囲にわたっており、さらに最も近い内標準から離れている場合、または、限られた少数の内標準しか使用できない場合は、補間したドリフト補正係数を使用することで、補正の正確さを向上させることができます。この補間は、実際に測定した複数の内標準元素のドリフト補正係数を補間することで得られます。
質量依存性のドリフトを正確に補正するだけでなく、内標準の補間はマトリクス効果を補正するのにも使用できます。それは、スペースチャージがマトリクス効果に大きく寄与しているものの 1 つであるからです。この場合、高濃度のマトリクスが導入されることによって生じるドリフトと同様に、マトリクス効果にも質量依存性が見られます。マトリクス効果に強い質量依存性があり、さらに使用できる内標準が限られている場合、マトリクス効果の補正に、VIS補正が有効です。
このVIS補正機能はオプションとして用意されています。したがって実際に使用する場合は、あらかじめこれから行う分析に効果があるかどうかを確認して使用する必要があります。
Drift Change & Matrix Effect Dependence on Mass
グラフ中の点は、Li (6), Sc (45), Rh (103), In (115), Tb (159), Bi (209) を示しています。このグラフから、信号強度は明らかに質量依存性あることがわかります。このような場合で、特にいくつかの内標準が使用できない場合に、VIS補正機能は効果があります。
重要なことは、スペースチャージ効果のみが必ずしもマトリクス効果に寄与するとは限らないということです。特にシグナル変動の主な要因が分析種の質量数ではなく、分析種のイオン化ポテンシャルである場合には、試料中の高マトリクス成分によってプラズマ中のイオン化が減少して、シグナル変動が起こる可能性があります。このような場合には、質量を基準とする内標準シグナルの補間は必ずしもデータの向上にはなりません。イオン化ポテンシャルの観点から、分析対象元素と似た性状の内標準を選択するのがよりよい方法です。もし、分析種の質量と感度変化の関係が一致しないのであれば、VIS補正オプションの使用には注意が必要です。マス軸に対する内標準の挙動は簡単にチェックできます。また必要であれば、回収率試験によってさらに詳しいチェックを行うことができます。
VIS補間式ではVIS元素を利用してどのようにVISを計算するかを選択します。VIS元素とは、VIS(仮想内標準 Virtual Internal Standard)を計算するために使用する内標準元素です。VISフラグをONにすることで設定できます。
VISフラグ
MassHunter上で上記の設定例の場合、GaとInがVIS元素となり、ポイント-ポイントを選択するとGaとInを結ぶ直線が仮想的に引かれます。その結果、この間に存在する各Massの元素に対して、VISがその線上に存在することになり、各元素の各内標としてそれぞれ計算に用いられます。
VIS元素が 1 つ以上必要です。ただしVIS元素が 1 つの場合は通常の内標準補正と同じ結果になります。VIS補正をする場合は 2 つ以上のVIS元素を指定してください。2 つ以上の元素を直線で結びVISを計算します。
ポイント-ポイント
すべてのVIS元素データから一次式を作成しVISを計算します。VIS元素が 2 つ以上必要です。
一次式
すべてのVIS元素のデータから二次式を作成しVISを計算します。VIS元素が 3 つ以上必要です。
二次式
通常、ダイナミックレンジの広い検量線を使って低濃度を定量する場合に、重み付けを「オン」にします。重み付けを設定した場合、標準偏差SDの小さいレベルに重みを付けて検量線を描きます。検量線は、各濃度での標準偏差SDを元に計算されます。つまり、検量線はSDの高いレベルの影響をより強く受けます。一般的に、高濃度の試料のSDは低濃度に比べ高い値になりますので、重み付けをしない検量線では濃度が高い側での誤差が小さく、濃度が低い側での誤差が大きくなります。
そこで、ダイナミックレンジの広い検量線を使って低い濃度を定量する場合には重み付けを設定し、高い濃度(大きいSD)よりも低い濃度(小さいSD)に重みを付けて検量線を描きます。また、各レベルに使用するデータごとに測定回数が異なっている場合でも、標準偏差SDの小さいレベルに重みを付けて検量線を描きます。
重み付け