この方法は以下のような場合に効果があります。
トータルマトリックス濃度が 100 ppmを超える場合、たとえば環境水などを測定する場合、マトリックス効果により信号の増感や減感が起こるためです。
この場合、信号がドリフトする可能性があるためです。
この方法は、標準溶液とサンプルの両方に意図的に加えられた他の元素(内標準元素という)で、測定元素の信号の変化を補正するものです。測定元素の信号が上記のような理由で変化したら、内標準元素も同様に変化するので、測定元素と内標準元素の比をとれば、感度変化は相殺されます。
(下図参照)たとえば、ブランク、3 種類の濃度の標準溶液、サンプル中の測定元素の信号をそれぞれ a0、a1、a2、a3、as、内標準元素の信号をb0、b1、b2、b3、bsとすると、内標準法を用いた場合、x軸は通常とおり濃度ですが、y軸は測定元素の信号を内標準元素の信号で割った比(a/b)で表わされます。サンプルの信号と内標準元素の比が(as/bs)だとすると、この検量線から濃度(cs)が得られます。
内標準法
検量線レポートでは比が表示されるだけで生カウントは表示されません。
飲料水の場合にはマトリックス効果はほとんど起こりませんが、硬度(Ca、Mg濃度)が通常より高い場合には、内標準を利用することをお勧めします。
標準添加法もこのような影響を避けるために用いられます。標準添加法に関しては後述します。
基本的には内標準元素としてはサンプル中に含まれていない元素を選択します。ただし、サンプル中の含有量が内標準元素濃度に比べて十分無視できる程度であればその元素を使用できます。
内標準元素としては測定元素とよく似た振る舞いをするものを選択します。したがって、質量数の近い元素、あるいは、イオン化ポテンシャルの近い元素を選択します。たとえば Bi (209 u) は質量数が近いのでPb (208 u) の内標準元素として最適です。また、Zn (9.39 eV) は Cd (8.99 eV) とイオン化ポテンシャルが近いこともあり内標準として用いることがあります。
内標準元素を決定するために、前もって半定量分析をすることをお勧めします。通常、Li、Be、Sc、Co、Ga、Ge、Rb、Y、Rh、In、Cs、Ce、Tl、Bi のうち 3 元素程度が内標準元素として用いられます。以下に例としてEPAの推奨元素を示します。
Li (6 u), Sc , Y , Rh , In , Tb , Ho , Lu , Bi
Li (6 u), Sc , Y , Rh , In , Tb , Ho , Bi
Li は環境サンプル中に含まれていることが多いので、用いる場合には高価ですが 6Liリッチな標準を使用します。
各サンプル、標準溶液に内標準を添加する場合には、濃度を一致させます。少なくとも検量線テーブルのレベル 1 に指定されている溶液中の内標準元素濃度とサンプル中の内標準元素濃度は等しいとみなされるので必ず一致させます。また、濃度は必ず 0 以外の値を入力してください。
ペリスタルティックポンプを用い、内標準溶液をオンラインで添加する場合は、サンプルと検量線用の標準溶液とは別に準備します。内標準溶液導入用のポンプチューブの内径はサンプル導入のチューブに比べて非常に細いので、内標準溶液の導入量はサンプル導入量の 1/20 程度になります。つまり、内標準溶液は 20 倍程度希釈されます。この事から、内標準元素濃度はxシリーズx-レンズ使用でBe 2 ppm、Ga 500 ppb、In/Tl 200 ppbをお勧めします。
内標準元素は測定元素と同様にデータ測定のパラメータ設定で選択します。
内標準溶液導入用のチューブは非常に細いので、吸着が問題となり、安定した信号を得るまでに時間がかかります。したがって、オンラインで内標準溶液を添加する場合には長めの安定時間が必要となります。内標準元素の信号が出現して安定するのをチューニング画面で確認してから測定を開始します。
干渉補正式と内標準補正を同時に使用した場合、まず最初に干渉補正が行なわれ、続いて内標準補正が行なわれます。したがって、検量線テーブルの中で干渉補正式の補正にのみ用いられている元素には、内標準元素を設定する必要はありません。
この方法はマトリックスによる増減感を補正するために用います。この方法では直接サンプルに標準溶液を添加するので、サンプル中にもともと含まれる測定元素と後から添加した標準溶液中の元素とは、マトリックスによる影響を同様に受けます。
仮にサンプルの信号をs0、それに標準を添加したサンプルの信号をs1、s2 とします。また、ブランク溶液の信号をbkgとして最小二乗法で検量線を得ると下図の左のグラフのようになります。この時点ではサンプルの濃度を 0、添加した標準の濃度をp1、p2 として検量線が得られます。検量線をブランクの信号まで外挿するとマイナスの濃度が得られますが、このマイナス分がサンプル中に存在する測定元素の濃度です。結果として標準溶液を添加したサンプルの濃度はc0 とp1 を合わせた濃度c1、c0 とp2 を合わせた濃度c2 となります。たとえばサンプルに 10 ppb (p1) と 20 ppb (p2) を添加して得られたサンプル濃度が 2 ppb (c0) だとすると、10 ppb添加したサンプルの本当の濃度は 12 ppbとなります。
標準添加法
一度標準添加法で検量線が得られると、外部検量線法に自動変換して、データ解析が実行されます。検量線を変換すると、y軸がブランク溶液の信号までシフトします。この時、ブランク溶液の濃度は 0 になり、サンプル濃度はc0(上の例では 2 ppb)となり、それ以外の濃度も同様に変化します。
標準添加法に用いたサンプルとそれ以外のサンプル中のマトリックスが同様であれば、マトリックス効果も同様に起こると考えられるので、この絶対検量線を用いてそれらのサンプルの定量分析ができます。
添加する標準溶液濃度はサンプル濃度の半分から 2 倍位をお勧めします。大きくかけはなれている場合、定量結果の誤差が大きくなる可能性があります。
メモリーや分子イオンなどのバックグランドがあった場合、それらが、測定元素の信号として計算されないようにブランク溶液(超純水や硝酸溶液)をバックグランドとして用いることをお勧めします。ただし、サンプルにマトリックスが含まれていると分子イオンやメモリーによる信号は生成度合が異なる場合があり、誤差となりますので注意が必要です。
バックグランドとしてブランク溶液を測定した時は、検量線作成時にデータを他のサンプルのデータと同様に選択します。検量線テーブルの中の濃度は-1 あるいはbと入力します(画面ではBkgと表示されます)。
標準添加法では検量線が作成された時点で定量結果が得られます。検量線グラフの中で定量値を見ることができます。定量結果だけを打ち出したい場合には、通常の結果と同様に [定量分析レポート] を用います。この時、定量結果はメソッドの一部となっているため、標準添加法の検量線を選択している時は、データ解析の画面で読み込まれているファイルには関係なく、検量線に用いられたサンプルの定量結果が打ち出されます。