サンプルの前処理や分析の例

環境サンプルや半導体サンプルの分析は ICP-MSICP-QQQ の重要なアプリケーションの 1 つです。ここでは環境、半導体サンプルを測定する上での注意点について説明します。

環境サンプル分析

環境サンプルはマトリックス濃度が高いため、一般的に前処理が必要です。また、チューニングや測定質量数に注意が必要です。

サンプル前処理

分析性能用語」で説明したように種々の環境サンプル前処理法があります。ここでは例としてEPA (the US Environmental Protection Agency) Methodと上水試験法の方法について説明します。

半導体サンプル分析

半導体サンプルは一般的に極微量濃度の測定が主体となるため、雰囲気や器具などからのコンタミネーションに注意を払うことが大切です。

設置環境

半導体を製造する工程において汚染が起こると製品の性能は劣化します。アルカリ金属、アルカリ土類金属による汚染は破壊電圧を低下し、遷移金属による汚染はキャリアのライフタイムを短くして暗電流を増加させます。ドーピング元素はデバイスの動作点をずらし、パーティクルは回路をショートさせます。したがって、これらの汚染を管理する必要があります。しかし、これらの汚染源は大気中至るところに存在するために、ICP-MSICP-QQQで測定するサンプルはこれらの汚染を受けないように特別な注意が必要です。最良の方法はクリーンルームを用いることです。

本装置はクリーンルームで使用できるようにデザインされています。フォアラインポンプはクリーンルームの外側に設置し、装置本体だけクリーンルームの内側に設置することが可能です。装置本体の冷却用の空気は外から内に流れて、すべての空気は上部のダクトから排出され、パーティクルの発塵を最小限に押さえています。

クリーンルームの清浄度はクラスで表わされます。クラス 1,000 は 0.5 μmのパーティクルが 1 ft3 当たり 1,000 個以下であることを意味します(米国連邦規格による)。一般大気中はクラス 100 万位です。クラス 10~1 の清浄度を得るためには床はグレーティングでダウンフローにすることが必要です。

サンプル導入系・インターフェース

汚染を極力避けるために、導入系の選択および洗浄には特別の注意が必要です。

半導体サンプル測定に使用する導入系、インターフェースは環境サンプル等の汚いサンプル測定に用いるものとは別に、専用に用意します。

臨床サンプルの前処理

この章は、液体臨床サンプルの前処理と 本装置による分析作業についてまとめた、クイックスタートガイドです。サンプルを溶解する際の手順や、臨床利用における微量元素分析の一般的な留意事項について記載しています。なお、このガイドは学術的に確立した分析手法を提供するものではありません。参考文献としての引用、もしくは臨床サンプルの前処理評価用資料としてのご利用は、お控えください。

試薬の種類と試薬の選定

試薬の選定は、正しいサンプリング手順と同等かそれ以上に重要であり、試薬はすべて高品質であることが必須です。臨床マトリックスの多くは塩基性溶液中で前処理できるため、そうした試薬を中心に説明します。参考としてCASナンバーを記します。試薬の入手については、お近くの試薬業者にお問い合わせください。

純水

使用理由:

主要な溶媒であり、希釈剤です。高純度品が必須です。最も重要な試薬です。Milli-QやELGAなどの超純水装置(> 18 MW)を使用します。

水酸化アンモニウム溶液(NH4OH、アンモニア水)[CAS 1336-21-6]

使用理由:

細胞を可溶化し、タンパク質の沈殿を止める塩基性の基本的な試薬です。高純度または超高純度の溶液を用います。

1-ブタノール(n-ブチルアルコール)[CAS 71-36-3]

使用理由:

一般的な各種の臨床マトリックスに対して「カーボンバッファー」の働きをします。イオン化ポテンシャルの高い元素(As、Se)に対する感度を向上させます。高純度または超高純度の溶液を使用します。

エチレンジアミン四酢酸(EDTA、H4-EDTA)[CAS 60-00-4]

使用理由:

塩基性溶液中の金属を信号安定待ちする錯化剤です。高純度が望ましく、Na塩ではなく、酸として注文してください。

ポリオキシエチレン (10) オクチルフェニルエーテル (TRITON X-100)[CAS 9002-93-1]

使用理由:

サンプル導入時の湿潤性を改善し、スプレーチャンバおよびトーチインジェクタ内の沈殿や閉塞を低減します。高純度の溶液を用います。

硝酸 [CAS 7697-37-2]

使用理由:

臨床マトリックス専用。リン酸値が高く尿サンプルに沈殿が生じる場合にのみ有効です。超高純度の溶液を用います。酸性溶媒を使用するときは、サンプル導入系の化学的安定性を保つために、すべての標準溶液およびリンス溶液は酸性であることが必要です。一般に、1% の酸濃度で十分です。

溶液の調製

希釈溶液の調製作業は、洗浄済みの低密度ポリエチレン製またはポリプロピレン製のボトル(PFAまたはFEPも使用可)内で、試薬を混合します。希釈溶液の組成は下表のとおりです。表内の重量は、溶液の最終体積が 1 リットルの場合の値です。

試薬

溶液における割合(%)(w/v)

重量(1リットルにつき)

1-ブタノール

2%

20g

EDTA

0.05%

0.5g

Triton X-100

0.05%

0.5g

NH4OH

1%

10g

純水

必要な体積にメスアップします

溶液は使用前によく混合してください。

サンプルの前処理

サンプルの前処理は希釈溶液で希釈するだけです。血液、血清、血漿についてはサンプルを 10 倍に希釈すれば十分です。尿の場合は、長時間のバッチ処理が行えるよう、最低でも 20 倍に希釈して塩濃度を下げることが必要です。

前処理の例:

Agilentオートサンプラ「I-AS」(89 個用ラック [6 mlバイアル] を搭載)を使用する場合を、例として説明します。

0.5 mlのサンプル(血漿、血清、血液)または 0.25 mlの尿をプラスチック製の使い捨てピペットチップを使って採取し、I-ASのバイアルに入れます。つぎに、4.5 ml(血漿、血清、血液の場合)または 4.75 ml(尿の場合)の希釈溶液を、5 mlのメスピペットで計り取ります。希釈溶液をサンプルの上からピペットで注げば十分に混合されますが、必要であれば超音波を用いてさらに混合します。

サンプル量に制限がある場合には、使用するサンプルの量を調節できます。装置に低流量のネブライザが備わっていれば、少ないサンプル量で全元素を定量できます。

装置は、希釈溶液を使って調整した標準溶液によって校正する必要があります。また、サンプル導入系の化学的安定性を保つため、洗浄もすべて希釈溶液を用いて行います。