有機溶媒分析の流れ
ここでは、本装置で有機溶媒の分析を行う際の、大きな流れの相違点について、MassHunter Workstationによる元素分析の流れを基に説明します。
操作手順の概要
通常は、スタンバイモードから本装置の運用を開始します。装置の電源がOFFの状態からスタンバイモードにするのは、標準の操作と同じです。通常の準備に加え、装置のオプションガスに
20%酸素/Arが供給されている事を確認してください。
有機溶媒のスタートアップ
有機溶媒のスタートアップでは、プラズマ点火後、トーチ軸、マス軸の項目で水溶液と同様に機器の基本性能が最適化されます。プラズマの点火時はイソプロピルアルコールを用います。
なお、EMの調整は有機溶媒分析時では行わず、別途水溶液で行います。詳しくは水溶液のスタートアップの項目を参照してください。
スタートアップを実行できる条件
有機溶媒の分析を行う場合、スタートアップを実行する場合と実行しない場合に分かれます。スタートアップを実行する場合、以下の機器条件を満たす必要があります。
これ以外の条件(たとえばs-レンズを使う)の場合は、スタートアップを実行できません。その場合は、下記の「スタートアップを実行しない場合」、および「スタートアップを実行しない場合の操作」を参照してください。
スタートアップを実行する場合
スタートアップを実行する場合はイソプロピルアルコールを導入してプラズマを点火した後、スタートアップを実行します。その後、分析する溶媒に合わせた適切なバッチを読み込み、レンズチューニングを行います。その後、試料を導入し分析を開始します。マニュアルでプラズマ条件を調整できます。
操作方法については、「スタートアップを実行する場合の操作」をご覧ください。
スタートアップを実行しない場合
スタートアップを実行しない場合は、イソプロピルアルコールを導入してプラズマを点火した後、その後のチューニングはマニュアルで行います。レンズチューニングを行い、試料を分析します。マニュアルでプラズマ条件を調整できます。
操作方法については、「スタートアップを実行しない場合の操作」をご覧ください。
準備する溶液
スタートアップを実行する場合は、あらかじめ、以下の溶液を準備してください。
- リンス溶液
分析前はイソプロピルアルコールを使用します。分析時は分析対象溶媒を使用します。
- チューニング溶液
水溶媒の標準液をイソプロピルアルコールで希釈して調製します。
溶媒:イソプロピルアルコール Li, Co, Y, Ce, Tl 各 10 µg/L
スタートアップを実行する場合の操作
MassHunter Workstationの起動
- MassHunter Workstationを起動します。
ハードウェアの設定
- 有機溶媒用のネブライザのサンプルチューブ用コネクタのOリング(コネクタを使用している場合)、試料導入チューブ、トーチをセットします。測定対象溶媒に適した有機溶媒用のドレインチューブをセットします。(その他の機器条件については、「スタートアップを実行できる条件」を参考にしてください。)
- ペリポンプはドレインだけに使用し、ネブライザへの送液には使いません。
- MassHunter Workstation上のハードウェアの設定を行います。[設定]
ダイアログボックスの [システム] - [ハードウェア] において、点火モードを [有機溶媒]、ネブライザは [MicroMist]、サンプル導入は
[ペリポンプ] に設定します。レンズの項目は [x-レンズ] を選択します。
ユーザーチューンの設定
ユーザーチューンを設定するには、次のように操作します。
- タスクナビゲーターの
[スタートアップ] グループから [ユーザーチューンコンフィグレーション] をクリックします。
[スタートアップ] グループが表示されない場合は、[ホーム] タブの [スタートアップ] グループから
[コンフィグレーション] をクリックしてください。
ユーザーチューンペインが表示されます。
- [有機溶媒パラメータ] プルダウンメニューから、[IPA] を選択します。
- [スタートアップのベースチューンモードを設定] の [No Gas] を選択します。
- タスクナビゲーターの
[スタートアップ] グループから [スタートアップコンフィグレーション] をクリックします。
- スタートアップペインのツールバーから、[点火シーケンスの設定]
をクリックします。
[点火シーケンスの設定]
ダイアログボックスが表示されます。
[ユーザーチューン] を選択して、[OK] をクリックします。
スタートアップの設定
- カスタム設定をONにした後、以下のように設定します。プラズマ補正、EMまたはP/Aファクタは行いません。
- 標準の設定では、洗浄ポートを使用する設定になっています。オートサンプラによっては有機溶媒を洗浄ポートのリンス液に使用できない場合があります。その場合は
[ペリポンプ] の [設定] で、リンスポートを使用しない設定に変更します。サンプル置換時間と安定待ち時間を十分とってください。各種オートサンプラのマニュアルをご覧ください。
プラズマ点火/スタートアップの実行
- [ホーム] タブの [スタートアップ] グループから [プラズマ] をクリックします。「プラズマ点火後スタートアップを実行しますか?」というメッセージが表示されたら、[はい]
を選択します。
- スタートアップ実行時、チューニング溶液を導入します。
溶媒の交換
- 分析に用いる溶媒がイソプロピルアルコールでない場合は、分析対象溶媒を導入します。
- リンス溶液も分析対象溶媒に合わせます。
バッチの編集
- チューニング以外の測定メソッド、データ解析メソッド、サンプルリストの条件を設定します。
- 以降は、水溶液を分析する場合と同じ操作です。
キューの実行
- 作成したバッチをキューに入れて、測定を開始します。
解析結果の確認
- 解析結果は [ICP-MSICP-QQQデータ解析]
ウインドウで確認します。
レポート出力
解析結果の保存
プラズマ消火
MassHunter Workstation の終了
- MassHunter Workstation を終了します。
スタートアップを実行しない場合の操作
MassHunter Workstationの起動
- MassHunter Workstationを起動します。
ハードウェアの設定
- ネブライザはマイクロミストネブライザまたはマイクロフローネブライザ(PFA)を選択します。試料に最適な試料導入チューブ、トーチ、有機溶媒用のドレインチューブ、有機溶媒用のネブライザのサンプルチューブ用コネクタのOリング(コネクタを使用している場合)をセットします。試料導入チューブ、トーチの選択は、ハードウェアメンテナンスマニュアルの付録Aをご覧ください。
- ペリポンプはドレインだけに使用し、ネブライザへの送液には使いません。
- MassHunter Workstation上のハードウェアの設定を行います。ダッシュボードペインにおいて、点火モードを
[有機溶媒]、ネブライザはお使いのネブライザを選択します。サンプル導入は [ペリポンプ] に設定します。レンズの項目はお使いのレンズを選択します。
ユーザーチューンの設定
ユーザーチューンを設定するには、次のように操作します。
- タスクナビゲーターの
[スタートアップ] グループから [ユーザーチューンコンフィグレーション] をクリックします。
[スタートアップ] グループが表示されない場合は、[ホーム] タブの [スタートアップ] グループから
[コンフィグレーション] をクリックしてください。
ユーザーチューンペインが表示されます。
- [有機溶媒パラメータ] プルダウンメニューから、[IPA] を選択します。
- [スタートアップのベースチューンモードを設定] の [No Gas] を選択します。
- タスクナビゲーターの
[スタートアップ] グループから [スタートアップコンフィグレーション] をクリックします。
- スタートアップペインのツールバーから、[点火シーケンスの設定]
をクリックします。
[点火シーケンスの設定]
ダイアログボックスが表示されます。
[ユーザーチューン] を選択して、[OK] をクリックします。
スタートアップの設定
- スタートアップを実行しないので、設定はありません。
プラズマ点火
- [ホーム] タブの [スタートアップ] グループから [プラズマ] をクリックします。「プラズマ点火後スタートアップを実行しますか?」というメッセージが表示されたら、[いいえ]
を選択します。
- 点火後の分析モードでは、ユーザーチューンで、トーチ軸、分解能/マス軸をマニュアルで調整できます。また、ダッシュボードペインでも、トーチ軸、分解能/マス軸を調整できます。
- マニュアルで調整する際は、チューニング溶液を導入します。
溶媒の交換
- 分析に用いる溶媒がイソプロピルアルコールでない場合は、分析対象溶媒を導入します。
- リンス溶液も分析対象溶媒に合わせます。
バッチの編集
- チューニング以外の測定メソッド、データ解析メソッド、サンプルリストの条件を設定します。
- 以降は、スタートアップを実行する場合の操作や、水溶液を分析する場合と同じ操作です。
キューの実行
- 作成したバッチをキューに入れて、測定を開始します。
解析結果の確認
- 解析結果は [ICP-MSICP-QQQデータ解析]
ウインドウで確認します。
レポート出力
解析結果の保存
プラズマ消火
MassHunter Workstation の終了
MassHunter Workstation を終了します。
有機溶媒と水溶液の違いについて
有機溶媒を使用する場合は、プラズマ点火する時のガス流量、制御のタイミングが水溶液の場合と異なります。これは、有機溶媒によって蒸発のしやすさ、粘度、プラズマに導入される量が異なるためです。
プラズマ点火後、分析モードになる時のチューニングパラメータを有機溶媒に合わせて設定します。水溶液の場合と大きく異なる点は、ネブライザガス(キャリアガス)流量、オプションガス流量、メークアップガス流量、ペリポンプ、スプレーチャンバー温度です。
これらの役割は次のようなことが関係しています。
- 試料(有機溶媒)がプラズマで分解され、カーボンが煤としてインターフェースに析出する事を防止するため、酸素をオプションガスから導入します。
- 試料(有機溶媒)の導入量が多いと、プラズマが維持できない場合があります。また、多くの酸素が必要となります。
- 試料(有機溶媒)によってはペリポンプチューブを劣化させる為、ペリポンプを使わず、自吸で試料を導入します。
- ペリポンプを使わないため、試料の導入量は、ネブライザガス流量と試料導入チューブの内径を変えて、コントロールします。
- ペリポンプはドレイン送液に使います。
- 試料(有機溶媒)の蒸気圧を下げるため、スプレーチャンバー温度を-5℃にします。MassHunter Workstationは、有機溶媒用のバッチにこれらの値を設定しました。IPA、Kerosene、Xyleneがあり、後者ほどプラズマ維持が厳しいものです。該当する溶媒名が無い場合は、プラズマ維持の困難さで近いものを選んでください。
- Xyleneを選択してもプラズマが維持できなかったり、ススが析出してしまう場合には、導入チューブを細いものに変えてみてください。試料導入量が減少します。